ニホンミツバチはどこから来たか
久志冨士男
世界には8種類のミツバチがいるが、欧米にはセイヨウミツバチだけで他はすべてアジアにいる。欧米には野生の蜂はおらず、いるのは人に飼われているセイヨウミツバチだけである。アジアで人に飼われている蜜蜂はトウヨウミツバチだけで、他は野生である。トウヨウミツバチには亜種がいて、トウヨウミツバチ原種より身体の小さいインドミツバチと逆に身体の大きいニホンミツバチで、日本にしか生息していない。
台湾にいるトウヨウミツバチは大陸側にいるトウヨウミツバチ原種と同じであると言われているが、昨年、台湾に行ったとき私自身で調べて、間違いないことを確認した。6角形の巣房を10個並べて、その長さを計測すると、亜種によって少しずつ違うことが判る。台湾のは大陸側と同じ45ミリであった。韓国のも中国のも45ミリである。ニホンミツバチのは青森から鹿児島、長崎県の対馬まですべて48ミリである。インドミツバチはその身体を一瞥しただけで小さいことが判る。巣房も43ミリと小さい。1つの巣房の巾はその10分の1で、ニホンミツバチだと4,8ミリである。
これまで鹿児島から沖縄島にかけて、南西諸島ではトウヨウミツバチは生息していないと言うことになっていた。ところが昨年徳之島にいるところが新聞に載った。私は奄美大島とカケロマ島に行って、そこには居るのかどうか調べた。飼っている人もいたのである。屋久島にも飼っている人がいることが判った。
ところが、家に帰って来てから私には、この地域のミツバチはニホンミツバチなのかそれとも台湾系なのかという疑問が出てきた。飼っている人を突き止めてしばらくすると、その人から、巣板が落下したという報が入った。私はすぐそれを確かめるために今年8月下旬に再び奄美大島に渡ったのである。
巣房の大きさはニホンミツバチと同じであった。屋久島からは巣板を送ってもらったが,ここのも同じであった。
日本本土とは海でかなりの距離隔てられているのになぜ同じなのか。誰かが日本本土から持ち込んだのではないかと疑ってみたが、最近飼い始めた人が少数いるが、持ち込んだとは考えられなかった。持ち込むのは一定の数が揃わないと近親交配でやがて死滅することは、長崎県の宇久島で証明済みである。
私は考えていて、これは重大なことを示していることに気付いた。蜜蜂は元々熱帯の昆虫である。地球の歴史で、北上することはあっても南下することはあり得ない。ニホンミツバチは南西諸島を通って日本本土に生息域を広げたに違いないと思い至った。
今から1万5千年ほど前に最後の氷河期が終わったと言われている。それまでの14万年は氷河期だったのである。氷河期には日本列島の真ん中あたりまで氷河におおわれ、海水面は現在より最高120メートル低かったと言われている。
南西諸島は1つの陸地をなしていて、台湾や大陸とも地続きだった。気温も低かった。そのあと、気温が上がって氷河が融け、台湾や大陸と切り離され、そのあとトウヨウミツバチは独自の進化を遂げたに違いない。寒さに適応するために、身体を大きくしていったのではないのだろうか。そしてそのまま、対馬やその他の離島のある地域にまで生息域を広げた。さらに温暖化は進み、海水面は上昇し、陸地は分断されたのである。
温暖化に応じて津軽海峡まで進出したが、この海峡を渡ることはできなかった。
ニホンミツバチは世界で一番北に生息するミツバチだと言われてきたが、そうではないことが判明した。ロシアの沿海州にトウヨウミツバチが生息していることを岩手の藤原氏らが確認している。
このことが判ったのは、沿海州の開発のためにトウヨウミツバチの蜜が日本に売り込めないかとロシア側が打診してきたことがきっかけである。
私が不思議に思うのは、蜜蜂が生息していることは住民には判っていたことなのに、なぜ昆虫学界には知られなかったのかと言うことである。南西諸島のニホンミツバチの場合と同じである。
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