松くい虫に関して | |||||||||||||
松くい虫空中散布取りやめ後の松林の推移」批判 2011,10,20 久志冨士男 その動機は、長野県が、松枯れ防止のための空中散布が必要な根拠として、長崎県総合農林試験場による生月島での試験結果を挙げているが、その試験区域の状況を、実際に出かけて観察した結果、疑問点が出てきためであった。 ちなみに、生月島は平戸市であるが、私の郷里も平戸市である。現在住んでいる佐世保市から1時間で行ける。 疑問点の第一は、スミパインMCの継続散布区と無散布区の比較がなされているが、それら2か所の地理的条件があまりに違うことであった。 この島は南北に伸びた島であり、西側は冬に北西の風が吹きすさぶのでほとんど人家はない。田畑も少ない。樹木も高くはなれない。この島には2つの大きな集落があるが、どちらも東側にあり、冬の風から護られている。田畑もほとんど東側にある。 試験区域の1つ、山頭草原は、この島で一番高い所にあり、台風が来たら高木はなぎ倒されるため、藪はできても林になるのは難しい。陽がよく当たり、土地がやせているので、松が多く生えてはくるが、大木になることはできない。20本ばかり松の成樹を見かけたが、よく頑張って立っていると感心したものである。すべて風を受け難いように枝は横に張れないで、細い幹が上方へ伸びている。しかしそれでも、強い風が吹き付けたら折れるであろう。こんなところを無散布区として選んである。 もう1つの試験区域、火口山(ひくちやま)は、この島の東側にあり、北風の直接当たらない場所で、しかも直径100メートルもない小さな丘である。ここが散布区に選ばれている。 地図で見たら高低差が判らないので、この2か所の条件の違いに気づき難い。島内では環境に両極端の違いのあるところを選んで比較をして何の意味があるのか? そのことに長野県はおそらく気付かないまま散布の根拠にしようとされているのではないか。 もう一つ疑問がある。この島全体を大きく2つに分けて実験をしたのなら意味があるであろうが、実際は小さな2か所を選んで試験がなされている。その1方の火口山だけに散布したのだから、実際は小さな火口山とそれ以外の全島とを比較したことになる。ところが、火口山以外の全島については全く言及されていない。これでは一体何の試験をしたことになるのか? 小さなデーターが並べられているが、何か意味があるのか? 最初に結果があって、試験なるものは辻褄合わせをしただけと思えてならない。 3番目の疑問。以下に述べるような散布地での矛盾を長野県の当事者はご存知ないのだろうか? 長野県には海がないので、このような問題は浮上することはないのかもしれない。 私たちが行ったとき、ちょうど田植えが始まった時であった。火口山の傍の田で田植えの準備をしている人たちに話を聞いた。 「この島は数年前までは松の木だらけの島であった。戦後までは、西側の岩崖を除いて全島ほとんど耕作地であった。過疎化が進むにつれ、畑地が放置され、そこに茅が生え、松が生え、その後椎の木などの雑木が生えた。その雑木が成長して松を追い越し始めると松は枯れはじめた。松は雑木が伸びたら自然に枯れるものだ。松くい虫駆除などと全く無駄なことだ。それが判ったので2009年にやめたのだと聞いている。それに迷惑な話だった。牛を出すな、人も出るなと言われた。そんなに危険なものを何のために撒いたのか判らない。風防のためだと言われたが、風防なら雑木で十分間に合うではないか。むしろ雑木の方が密に生えているので風をよく防ぐ。何か騙されていたような気がする。」 私が火口山を指して、「そこには松がいくらかあるじゃないですか。松枯れ防止剤を撒いたからでしょう」と言うと、「もうすぐ枯れてしまう。ほらよく見てください。椎の木が松を追い越そうとしているでしょう。ああなったら松は終わりだ。ここは少し土地が盛り上がっているので畑にしたことがない。タキギ取りに使っていた。それで松も雑木も生えるのが遅れた。そのぶん、枯れるのも遅れている。」 この後、漁村部に行ってそこで昼食を摂った。そこの主人が話をした。「漁業不振の原因は陸に農薬を撒くからだ。農薬は結局海に流れ込む。除草剤が特に悪い。海藻や植物プランクトンを死滅させる。海の食物連鎖の根底を破壊している。農薬を全廃せろとは言えない、減らしてくれと言っている。それが無視されている。松くい虫駆除のような無駄なことから止めさせたのだ。2009年から止めさせた。俺たちは抑えているのだ。でも、もう抑えが利かなくなりかけている。騒動を始めたら困る人がいるので抑えている。」 店の主人は怒りを露わにして私たちに訴えた。 おそらく、これが火口山の散布が中止になった第一の理由であろう。 農水省とは字面の通り、農と水で構成された省である。末端では騒動になりかけている。小さな島が分裂しかけている。省内でそれは分かっておいでなのか? 「騒動を始めたら困る人」とは誰のことか分かっておいでなのか? おそらく長野県の方には解らないかもしれない。長い間長崎県の知事をなされてきた方はこの島出身である。農協と漁協が地盤である。 2011年9月、「林業と薬剤」No.197に、冒頭に述べた長崎県農林総合試験場の報告書を書かれた吉本貴久雄氏が「松くい虫空中散布取りやめ後の松林の推移」と題した文を書かれていることが判った。 氏は当然、上述のような矛盾を農薬撒布はもたらし、その結果松くい虫駆除剤散布を中止せざるを得なくなったことは自覚しておられるはずである。何らの反応もこれまで無かったが、今回発表なされた。しかし、読んでみると、私たちの意見に対する回答あるいは批判ではなく、最初の報告書の詳述であった。生月島で結果したことも重大であるが、長野県で自分の報告書が問題になっていることはさらに重大であり、報告書を書いた責任者として何らかの回答があってしかるべきではないのだろうか? しかし、回答は望めないにしても、「おわりに」に書かれていることで、氏の論旨は読める。 「生月島における空中散布は・・2010年にはすべてとりやめとなった。狭い島内で防除する区域と防除を放棄した区域が混在する状況となってしまっては、被害発生を押さえ続けることは困難である。」 防除を信じておられるわけである。松がパイオニア植物と呼ばれ、森林が安定林である雑木の森に移行するための先駆的な働きをする樹木であることを御存じない。松くい虫駆除剤なしでは松が存続できないのなら、この農薬が開発される前に松は絶滅していなければならない。私たちは前回のパブコメで、九十九島の松、京都御所の松林、代々木公園の松の写真を示して、なぜ枯れないのか問うている。 氏の締めくくりに「長い年月がかかるが、環境が大きく変わらない限り、再びクロマツ林に覆われた島の姿へと回帰していくものと思う」とあるが、防除は最終的には必要ないと矛盾したことを言っておられる。正しくは、「環境が大きく変わらない限り、もはやクロマツは戻って来ない」である。 *以下は上記意見への長野県からの返事です。
「ミツバチたすけ隊」代表 久志冨士男 様 文章の御送付ありがとうございました。 いただきました文章につきましては、有人ヘリ松くい虫防除検討部会委員に配付させていただきました。 なお、御指摘いただいております長崎県の事例につきましては、現時点での「松くい虫防除のための農薬の空中散布の今後のあり方(案)」において記載をしておりませんので、本県からのコメント等は差し控えさせていただきます
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長野県が募集している「今後の農業の空中散布のあり方についてのパブリックコメント」 松くい虫防除の空中散布の今後のあり方(中間報告案)への意見 意見1 資料1の中間報告(案)p10で、農薬散布効果の事例として挙げられている図5・表5:長崎県総合農林試験場による試験結果(H16以降スミパインMC継続散布区と無散布区の比較)についての意見です。(「長崎県資料」写真参照) この資料は平戸市生月島での長崎県総合農林試験場による調査結果報告、「[成果情報名]スミパインMCの1回空中散布による松くい虫予防効果」が基になっていますが、現地の状況が判りませんので、「ミツバチたすけ隊」で、4月22日と23日、行ってみることにしました。佐世保から生月までは1時間で行けます。 道を尋ねた食堂の主人は、「生月島ではもう松くい虫駆除剤の散布はない。海を荒らすのでやめさせた。農薬は結局海に流れ込む。漁業不振の原因だ」と声を荒げました。 資料には、空中散布区として火口山(ひくちやま)、取りやめた無散布区として山頭(やまがしら)をあげてあります。 山頭は360度見回して20本ほどの成木が立っていました。幼木もありました。 火口山は、2009年から散布は取りやめられたそうですが、2年経つのに、いまでも枯れずに青々と茂っています。 4月23日、山頭草原:(山頭1,2、 360度見回して松が見えるのはこれだけ。山頭3は接近写真、山頭4は望遠) 牛の放牧場でした(山頭5)。山の頂上で、一面草地です。その周りに松が立っています。これまで、台風に耐えて、こんなところに立ってきたことが驚異です。よく見ると幼木もあります。世代交代もあるはずです。雑木の幼木がグミ以外では見当たらないのは牛が幼木を食べるからではないでしょうか。グミは棘があるので食べられないと思われます。 4月24日は溜池の水が開けられて、田植えの時期が始まり、火口山の傍では近くの田に人が働いていました。(写真、火口山3は左の方に移動して近づいた写真。火口山4は火口山の右方にある別の山) その人たちに話を伺いました。 散布をやめたのは「効果がなかったからだと聞いている」と言うことでした。「いま、茂っているではないですか」というと、「やがて枯れる。よく見てください。間の雑木が伸びてきているでしょう。松より高くなったら松は枯れる。生月は全島が松だらけだった。時が経つにつれて雑木に入れ替わった。散布があってもなくても松は枯れる時が来れば枯れる。散布する時は、牛を出すな、人も出るなと言う。迷惑な話だ。そんな危険な薬をふって、そんなに松が大事なのか」と言う返事でした。火口山の隣の山にある雑木の間には、枯れた松の幹が数本見えました。「松だらけだったのはそんな昔の話ではない。自然に従えばいいのだ」 低地の風当りの少ない松林と高地の風当たりの強いところにかろうじて立っている松をみて思ったのは、 長野県が、長崎県の松林の現状を確認せず、報告書の図表だけを引用して、農薬効果の比較をされていることに無理があるのではないかということです。 引用された方は、現地ではすでに散布が中止されていることをご存知でしたか。火口山では、空中散布をしないでも、松林が存続していることをどう思われますか。 ★長崎県資料![]() ★山頭1 ★山頭2 ![]() ![]() ★山頭3 ★山頭4 ![]() ![]() ★山頭5 ![]() ★火口山1 ★火口山2 ![]() ![]() ★火口山3 ★火口山4 ![]() ![]() 意見2
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